彼に振られて失恋した

振られた。やんわりと、もう私とは今まで通りではいられないと言われた。

正直、仕方ないと思った。私は恋愛的な振る舞いに全然興味が持てず、彼とも友達と変わらない関わり方をしていた。学生時代からの仲だったし、それでもいいのだと思っていた。彼が何も言わないのは、不満がないからだと思っていた。

 

まあ、そうではなかったわけで。ショックを受けている。恋愛的振る舞いをしてこなかったのに、今の感情は失恋だと思うのだから、我ながら変な話だ。

 

彼の、品があって知的で、私の話をよく聞いてくれて、笑ってくれるところが好きだった。

 

私は美術館や水族館などの鑑賞をする場所に行くのが好きだったが、そういったものに関心のある友達はあまりいなかった。彼は私が行きたいと言う場所に何でも付き合ってくれた。思えば、私が今まで行ってきた美術館や展示の半分以上が、彼と一緒だった。

 

それがもう、彼とは一緒には行けない。それが悲しい。

 

私は結婚願望が全くない。一人暮らしの快適さを知ってから、誰かと一緒に住むのは、一人暮らしに飽きてからがいいと思っていた。つまりずっと先、あと十年くらいは一人暮らしでいたかった。彼と一緒に遊びに行くことは好きだったけれど、彼と一緒に暮らしたいとは思わなかった。結婚したら名前を変わるのも手間だと思っていた。お金の管理が面倒になるのも嫌だったし、食事を私都合にできない、人に合わせる場面も必要になると思うと、面倒に思えた。子供も欲しいと思わない。まだまだ一人で黙々とやりたいことがたくさんあったから、寂しいと思うことが全然なかったから、ライフステージを上がるのはまだまだ先でいいと思っていた。

 

彼はそうじゃなかった。彼が今まで何も言わないから、私の話をにこにこと聞いてくれていたから、きっと私と同じなんだろうと勝手に思っていた私の落ち度だと思う。

 

行きたい場所を見つけたら彼を誘って遊びに行く。行きたい場所が見つからなければ半年くらいは平気で連絡しない。それが私だった。手を繋いだり好意を伝えたりはせず、本当に、友達みたいだった。私はその関係が居心地よかった。

それは私だけだったんだ、彼にとっては望ましくなかったんだ。まあ普通に考えりゃそうなんだろうけど、好きな人と感覚が一緒じゃなかったと言うのは、ショックだ。

 

ずっと昔の学生時代からの仲だった。学生ノリのままの私が子供っぽくて、密かに幻滅されてたのかもしれない。私は彼が好きなお酒も全然飲まなかったし。

 

連絡無精だったのも良くなかった。付き合った記念とか覚えてもいないし、誕生日も付き合い始めた頃の2回くらいしかプレゼントを贈らなかった。だって、誕生日って本当にめでたいと私は思えなくって、周りのみんなが誕生日を特別なイベントにしてるから、私も真似してただけだった。周りの目を意識しなくなると、自然と誕生日も平日になった。クリスマスは友達とクリスマスパーティーをするのが恒例だった。

 

文字でのやり取りも、顔の見えない電話も、そんなに好きじゃない。直接会って話すのが好きだった。例え半年やり取りがなくても、会った時に話すことがたくさんあって楽しいくていいとさえ思っている。数年は続いた私と彼のこの関係性を、友達は「織姫と彦星じゃん」なんて笑ったことがあった。私は友達のこの冗談が大好きだった。軽くて、カラッとしてて、楽しくて大切な関係性だった。

 

こう振り返ると、私が振られるのも尤もだ。でもショックだ。

彼といて楽しくなかったことはなかった。それもそうだ、体調が悪い時や楽しい気分になれない時は彼と連絡を取らなかった。

 

持病で入院した時、彼はお見舞いにきてくれた。でも、メイクしてない顔であるのは、正直嫌だった。彼とは気合い入れた状態で会いたかった。彼が通院に車を出そうかと言ってくれた時も、猛烈に断った。そんなことより自分のことに時間を使ってと言った。その後また入院することになった際は、彼に言わなかった。退院した後に「この前また入院しちゃってて〜」と雑談で話した。

 

こうして書き出してみると、彼がより正しくなる。私のような人に今後の人生を割くことはできない。本当に曇りなく友達だ。学生時代の恋愛体験みたいなお付き合いをだらだら続けてたら、

 

続けてたら、の先が書けない。彼にはこの関係は続けられないと思われたけど、私はこの関係を続けたかった。

 

彼が同性だったら、本当に友達だったら、この関係はずっと続いていたのだろうか、なんて考える。彼が異性でなくても、私はきっと彼のことを好きになった。人となりが好きだったから。そりゃ、彼の外見ももちろん好きだったけど。

 

いわゆる恋愛的振る舞いをしたいわけではなかった。たぶんこれからも、私は「あなたが好き」と言われるより、「あなたが作ったものが好き」「あなたが好きな物が好き」と言われた方が嬉しい。私ではなく、私が見ている物を見て、それを語ってほしかった。だから私は鑑賞をする場所へ行くのが好きだった。

 

友達には何度か「それって付き合ってるの?」と聞かれた。私と彼の関係性が一般的恋愛関係とはズレてることはわかっていた。でもそれが私たちだと思っていた。私だけが。いや、彼も途中までは、学生のうちはそう思ってくれていたと思いたい。だからこそ、私たちは数年は続いたわけだし。

 

友達に「アセクシャルなんじゃない?」と言われたこともある。それも納得した。多分そんな感じだ。

私は彼と同じくらい友達が好きだ。なんなら、彼と出会うより前から仲良かった友達を彼より優先することは正当な順位づけだとさえ思っている。今でさえ。だからクリスマスパーティは毎年友達と過ごした。だって、彼がそのことに彼が何か言ったことはなかったし。

私は彼にして欲しいことは全部言った。ここに行きたい、これを食べたい。彼は全部頷いてくれた。彼からはなかった。それは不足がないからじゃなかったと今更になって知る。

 

でも、振られる前に会った半年前、彼は「また誘って」と言った。言ったじゃないか。私の話を笑って聞いてくれたじゃない。半年ぶりだったって、このままでいいんだって私は嬉しくなったのに。この半年で何があったって言うのさ。

半年なんてあっという間で、私は大して変化なかったのに。彼にとっては色々あったわけだ。男子三日会わざれば刮目してみよって言うものね。男子約180日会わざれば別人になってると思えよってことだよ。

彼が私と会っていない間どうなったのか聞きたい。けど、もう振られちゃったから。引き際を誤るほど私も下品じゃない。軽くて、カラッとしてて、楽しくて大切な関係だったんだから最後までそうでありたい。

 

もう、彼と会うことはないと思う。これからの人生で私を懇意にしてくれる異性ができるとも思えない。そもそも、恋愛関係を他者と構築することすら、もうできないだろう。

しばらく、ショックなままでいようと思う。案外、この喪失感はあと数年熟成すればそれはそれは甘美な思い出になるぞとほくそ笑んでる自分もいる。こいつのせいで涙がでないんだと思う。涙目にさえならないのだから、この恋は本当にカラッとしてて、好きだった。

 

 

 

と、えもいわれぬエモーショナルな気分になっていたのだけれど、ふと彼にハイキュー全巻かしてるの思い出してうわー! という気分になりました。ぶっちゃけ返して欲しいけどこれ以上彼に何かしてもらうのは気が引ける! 振られた手前返してって言いずらい!

ハイキューは私の人生のバイブルと言ってもいいくらい大好きな作品なので、いっそ彼への最後のプレゼントとしてあげた判定出して、読み返したくなったら新たに電子書籍で買い直してもまあいいかもという思いもある。彼が今後の人生でハイキューを見るたび私を思い出すかもしれないのも愉快ですし。

お金同様、本も貸すときはあげる心づもりにしておいたほうがいいですね!